メルボルンではOPEN HOUSE MELBOURNEというイベントが年に一度行われている。
Londonでも有ったな、と思って調べると、Open house world wideというネットワークがあり、世界で60都市が同様のイベントを開催しているそう。大阪のイケフェスも入っていた。
今年のメルボルンでは172のサイトがあり、ガイドツアーや個人宅は人数限定の予約制となっていて、チケットは争奪戦と聞いていたので、発売初回当日待ち構えていた。が、支払い認証で手こずっている内に分も立たずに狙っていたサイトは5分も経たずにsold out(日本のクレジットカードでは決済できなかった。Amazon.auもそうだが、こちらの銀行と紐付いているカードでないとオンライン決済できないことが稀にある)。
2回目の発売日になんとか2つ取れた。waiting listにポストしておくと、後からキャンセルが出た場合にチケットが取れる場合も結構あります。(私もそれでもう1つ取れた。ツアーの開始30分前とかにキャンセル出たりもするので、ギリギリまでわからない)。チケットはブッキングフィーのわずか$7だけなので、とても良心的。
今回いくつか見学した所を紹介します。
■The Old Chestnut / 2022 / FIGR Architecture Studio
メルボルンにはテラスハウスと呼ばれる長屋形式の間口が細く奥に長い住宅が多くあり、それを家族構成の変化や売買などによって、奥庭に増築しているのをよく見かける。ここも同様に、西側接道側に位置する母屋(玄関+2寝室)と、東側(おそらく元々は庭があった?)にバスルーム、LDK、ガレージ兼庭を増築、とうプランになっている。
15分前くらいに到着すると、ちょうどピンクのベストを着たオフィシャルボランティアが立て看板を出して準備をしていた。設計した事務所の建築家2名が屋外で概要を説明し、その後、チケットのバーコードを読み取られた人から入場。参加者は延べ20名程度。建築家や建築学生とそれ以外の一般の方も大体半々といった印象。30分ごとのツアーで、内部を実見できたのは15分程度だった。
リビングにある北向きの大きなトップライトがとても効いていて明るい。かつ、庭に面する三枚引き戸が開放されると、細長いキッチンとの一体感が生まれ、そこまで室内と感じられる気持ちの良いプラン。
平屋なのに、露出しているフレームは鉄骨なので、木造よりコストが安いのか?と思っていたら、後ほど幾人かのこちらの建築家に訊いた所では、基本的に主構造は木造の方が安いが数年前(おそらくcovidの頃)木材価格が急騰して、鉄骨の方が安い時期があった、とのこと。
オーストラリアは鉱山から鉄鉱石を今でも輸出しているが、それをアジアの国々などが加工し自動車などの製品を作って、輸入している(オーストラリアでは自動車は製造していない)そうなので、情勢によっては鉄の方が安い事があるのかもしれない。
室内に使われている建材は、床はモルタル金ゴテ、壁はフレキシブルボードやビーチっぽいベニヤ(ステイン着色、クリア)、ペイントやタイルと、日本でも馴染みがある物が多い。サッシ周りのスチールワークや、細かな革の引き手(HEIDE museumでも見た)、キッチンの天板の納まりなど、素材の質感の組み合わせとバランスが上手く、プラン共々よく出来ている。(2023のヴィクトリア州建築家協会の賞を受賞している)
設計した事務所のweb掲載ページにより多くの写真と解説が載っています→
https://figrprd.wpengine.com/projects/that-old-chestnut/
■State Library Victoria / 2020 / Architectus
観光名所にもなっている、2020年に完成したヴィクトリア州立図書館のリノベーションを、設計したArchitectusの担当者とヘリテージアーキテクトの二人で行われたガイドツアーに参加した。参加者は約15〜20名ほど。
北側のエントランスで集合し、順番に部屋を巡りながら、改修前の状態の写真をiPadで見せつつ、解説されていく。週末で来館者も多い中、マイクなしでの解説なので、(私のリスニング能力の問題もあり)なかなか解説者の話していることを聞き取るのが難しかった。。
北側の元々museumだった部分も今回のリノベーションで統合され、カフェやshopとして再生された経緯や、床材の再利用、既存の階段への可逆的な手摺の増設、オーストラリアで最古のガラスブロックが残る部分など、既に数回訪れているのに聞かなければ気づかなかった見所は多かった。
■Edmond and Corrigan office open studio / 1986
図書館から歩いてすぐの場所に有る、上述の建築設計事務所が閉業した後に、別の建築事務所が入居予定でリノベーションする前の状態でオープンスタジオをやっていた。
Edmond and Corriganは、すぐ近くにあるRMIT大学のBuilding8校舎を設計しており、その際のドローイングもスタジオに展示されていた。色鉛筆によるスタディドローイングが素晴らしい。件の建物はぱっと見、ポストモダンの最たる物としか見えないが、このようなドローイングを見ると見方が変わってしまうのが面白い。このスペースはオフィスとしてだけでなく、一部ギャラリーとしても使われる予定とのことだった。
■Narrm Ngarrgu Library / 2023 / Six Degree architects
観光名所でもあり、メルボルン最大の市場でもある、クイーンヴィクトリアマーケットの道路を挟んで南側に隣接する図書館。先住民との結びつきを強調し、彼らのアートが各所に飾ってある。また、図書館(3F)だけでなくリーディングスペース(2F)、各種ショップ(1F)、地下には駐車場といった複合施設となっていた。
ここだけでなく至る所で感心するが、こちらの建築家は色の使い方が上手い。オランダやフランスとはまた少し違う、渋さと元気さが同居するような配色とバランスが、空間の躍動感に大きく貢献している。ここも含め、天井はスケルトンで設備露出の場合が多いが、その天井に床の配色が照明の反射で映り込み、各場所を微妙に彩っているのが面白い。
マーケット散策に疲れたら一休みに寄ってみるのもお勧めするような素敵な空間でした。
■Naightingale Preston / 2023 / Breathe
元々は、建築設計事務所Breatheが、住宅不足で価格が急騰しているメルボルン(シドニーも同じく。オーストラリア全体的に住宅供給が不足している事が大きな問題となっている)において、サステイナブルでデザインも含め質の高い住居を市場価格より安く提供できないか?と2007年に始まったプロジェクトで、投資家に呼び掛け、リターンは低いが意図に共感したクライアントを集め、既に21軒/616戸もの住居を供給している。運営会社は独立し、現CEOは元々Breatheに勤めていたスタッフのよう。
特徴としては、
・高気密高断熱による冷暖房ランニングコストを低減した設計
→基本、冷房はなし(前室にシーリンフファンはあり)。暖房は天井に輻射式暖房のパイプが走っていた。オプションで熱交換式の換気設備も入れられるらしい。
・最大でも2ベッドルームであり、バスルームは各戸に1つでシャワーのみ。(こちらはエンスイート=バスルーム付き寝室、というプランが珍しくない)
・洗濯機や物干し場は各戸にはなく、屋上に共同の洗濯機と物干し場がある。
・屋上には、予約制のバスタブ付きバスルーム、ゲストが来た時に食事できるダイニングルーム、共同菜園、展望のよいデッキテラスあり。
→これらの屋上の共用施設が住人同士のコミニュケーションを促し、コミュニティの形成を促進する。
・地球環境への配慮から、マイカーより公共交通や自転車による移動を推奨しており、原則ガレージはなく、入居時にマイカーは持たない旨の誓約書まで交わすらしい。その代わり自転車駐輪所はあり、また立地も駅のすぐ近く、かつ、バイクパスに隣接した敷地が選ばれている。
・住戸タイプは、ファミリータイプだけでなく、一人暮らし用やカップル用のロフトやワンベッドルームも一定数必ず計画しているのが特徴。そのような単身/カップル世帯の需要を満たすことも目的のひとつ。
・入居希望者はアプライし抽選となるが、エッセンシャルワーカーや先住民への優先投票権が一定割合確保されている。
・見学ツアーもこのオープンハウスだけでなく、有料で定員小だが定期的に開催されている。
などなど、建築自体のデザインだけでなく運営面でのデザインもかなり興味深い。
詳しくは公式サイトをどうぞ。
当日は雨だったのでトラムでCBDから40分ほど北へ向かう。街並みが郊外っぽく空が広くなってきた辺りで到着。今回見学できたPrestonは、ナイチンゲールプロジェクトの担当者2,3ヶ月前に完成し入居が始まったところだそう。
参加者は20名ほど。入口でチケットをスキャンして貰おうと入ったら、1軒目でも会ったアジア人の参加者がいたので言葉を交わす。やはり建築家で、香港出身でメルボルンで働いているよう。1日目だけで7つも見て回ったそう。気合いが入っている。
全員揃ったので、エントランスから案内が始まる。エレベーター前にベンチがあったり、1Fの各住戸(道路側に玄関がある)には住居前にベンチがあったり、座れる所があるとコミュニケーションが容易に産まれそうで良い。
最初に1Fのワンルーム+ロフトベッドの部屋を内覧。1Fは天井高さが高く(おそらく4mくらい)ロフトベッドの下に、小さなデスクスペースとバスルームが収まっている。床はコルクタイル(どの部屋も共通)、キッチンや棚などの造作はMDF(広葉樹+ウレタン系フィニッシュ)、天井はRC打ち放しorペリメーター部はボードで包んで白系ペイントとなっている。
手摺や外構の亜鉛ドブ付けフェンスや、現しのスパイラルダクトもあり、工業的な印象と、木で組まれたロフトや、木サッシ(気密性が高そうだったので製品ぽい)や造作の木質系が相まって、MUJIっぽい印象だが、飾られているアートやアイテムのセンスでとても雰囲気がいい。
どの家もそうだったが、総じてこちらの家は「飾る」という事に積極的で、普通にアート作品が置いてあったり、ポスターやフライヤー・本を上手に飾ったり、家具・アート・照明の使い方で空間をとても魅力的に見せている例が多い。平均的に、デザインに対してポジティブな姿勢を感じる。
2Fに上がって、2ベッドルームのファミリータイプの家。約75㎡。
角部屋にはインナーテラスが設けられており、外で食事できるテーブルが置いてあった。こちらは夏でも湿度が低く、蚊もあまり見かけず、日陰のテラスはとても心地よい。床がデッキになっており、内部と段差もないので部屋の延長のようになっていた。居住者が普通に居て、見学者からの様々な質問(共益費や、光熱費と暑さ/寒さ、入る時にどんなオプションに幾らかかった?など)に気さくに答えてくれていた。基本、全て分譲だが、価格は部屋のタイプに関係なく面積に比例している、とのこと。
4Fに上がって、1ベッドルームの部屋。玄関からクランクしてLDKに繋がっており、個人的にはここが最も住んでみたいと感じた。カップルが暮らしていて照明や鉢植えなどとてもセンスがいい。
最後に屋上に上がる。ルーフテラスからは遠くにCBDの高層ビル群が見え、近隣に高いビルがないのでとても見晴らしがいい。ベンチも置いてあるので、暖かくなればここで洗濯を待つ間、日向ぼっこが気持ち良さそう。
予約すれば使えるバスルームは「ジャパニーズスタイル!」と他の見学者が思わず声に出していたが、日本のホテルの浴槽の雰囲気。共用ランドリーはずらりとドラム式が並んでおり、その脇にはワイヤーが渡された共同物干し(ポリカ屋根付き)がズラッと並んでいた。
気づけば雨も上がり、綺麗な夕焼けを横目にCBDに向かうトラム駅に向かった。