京都の閑静な住宅地に建つ住宅のリノベーションです。
隣と繋がる既存の門をそのまま残し、その内側から手を入れました。なので、道路からの外観はほぼ何も変わっていません。

門を入った所に増築されていた水回り棟を、柱と屋根を残して解体し、そのスペースを物干し場(兼自転車置き場)としました。それにより、建物一階への採光や通風も改善されました。

中に入ると、一階は水回り以外ほぼワンルームです。まず二階から降りてきているような合板張りの天井が目に入ります。

テーブルや机使いの空間ゆえ、既存天井を抜き、背を高くしたダイニングキッチンと、そこに隣り合う畳を敷き床座でくつろげるよう背を低くしたリビングとを繋げるべく、上から量魂が押しつけられたような合板張りの天井・壁を設えました。その内側で耐震補強が壁・床に渡って施されています。

キッチン上部の天井を抜いたところ、元々通り庭におくどさんが置かれていたようで、煤で黒ずんだ小屋裏がきれいに残っていました。それをそのまま現しつつ、南向きの高窓をとることで、ダイニングが随分明るくなり、また重力換気によって風も流れるようになりました。

これらによって、水平方向にも垂直方向にもL型になったリビングとダイニングが生まれました。

間仕切りを取り払いワンルームにしたからといって、とりつくしまがなければ居心地は良くありません。光や風の入る方向や、空間の形、部屋の向きによって、ひとつながりの部屋であっても異なるいくつかの居場所をつくりました。キッチンで料理をしながら、後ろでは机で宿題をしつつ、それを横目に畳でくつろぐ。ひとつの部屋にいながら、違う目的の行動を共にできるように。

道路から門を入った前庭。増築されていた部分を撤去し物干し土間にすることで、通風と採光も向上した

玄関から見通し。梁は全て既存

お隣の路地の緑を借景に。新規高窓から採光と通風を得る

建築当時は通り土間のおくどさんがあったと思われる。天井を除き、既存小屋裏を現した

マエダ木工製作のキッチン。タモ集成材の天板にオーク単板貼りの幕板。引出内部も杉集成材で製作。*

リビング奥より見返し。ナシの一枚板テーブル、食器収納もマエダ木工作

畳部は床暖房入り。庭は既存を刈り込み

洗面よりリビングを見る

階段は杉。3段目がそのまま机の天板になっている。宿題をしたりPCで調べ物をしたり

机に座った目線の高さ辺りまで蹴込板が抜かれている

階段を上がった2Fの部屋。奥の和室は既存まま。*

夕景。リビング足下に間接照明を入れ、重心を下げている

背の高いダイニングと背の低い畳のリビングが隣り合いつつそれぞれの異なる居心地を持つ

◆敷地の資材性

新築もリノベーションも、「敷地」とする範囲が変わるだけで、基本的な設計の仕方は変わりません。既存建物は、垂直に立ち上がった敷地のようなものです。他者が設計した三次元的な架構の中で、どう必要な容積を掘り出していくか?それをまず考えます。

敷地に生えている樹木を切るのは抵抗があるように(そこまで育てる相応の時間を捨てるようなものなので)、既存建物の部位を撤去するのも抵抗があります。もちろん何でも残せばいい訳でなく、老朽化して使うに見るに耐えない物もあるので、取捨選別し使えるものは残します。それは素材だけでなく、物のかたちや敷地のかたちといった抽象的なものも含みます。それは敷地境界線を越えて、隣の緑も切り取られる空の形も同じ。

今回においては、門と前庭や、和風の庭、隣の路地の緑、煤で黒ずんだ小屋裏、いびつな敷地境界線など、多くの使える要素を、なるべく違和感なく新しい部分に繋げました。丁寧に敷地を観察し、使える資材を用い、豊かな空間を作ることを目指しました。



General information

竣工: 2014年7月
用途: 専用住宅
建築地: 京都市
構造: 木造(改装)
階数: 2
建築面積: 50.12㎡
延床面積: 83.57㎡
設計・監理: みささぎ一級建築士事務所/松本崇
家具:マエダ木工/前田智之
施工:アプト/廣野勝、廣野和也
撮影:繁田諭写真事務所/繁田諭、(*:松本崇)

電気・空調設備工事/総合設備アオキ/青木紘一
造作工事:西田工務店/西田久夫
基礎・コンクリート工事:竹下組/竹下正男
美装:中野洗工店/藤田博
給排水衛生工事:福田商会/川戸伸輔
ガラス工事:マツナガ/中島裕人
仕入金物工事:ミツギ/森口晃
塗装工事:宮坂塗装店/宮坂和夫
畳工事:山本畳店/山本健
木製建具工事:ひがき木匠/加藤幸秀
発生材処分:水谷建材店/水谷雅次
木材:京北森林組合/仲北弘樹
木材:マキタ木材/三宅牧太
建材:平安建材/谷口敦


completion:  May, 2012
type:  house
location:  Kyoto, Japan
structure:  timber (renovation)
storey:  2
foot print:  50.12 sqm
total area:  83.57 sqm
architect: misasagi
contractor:  apt
furniture: Maeda Mokko
photo:  Satoshi Shigeta

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