140201 時間性の豊かな表現

2/1に行われた「御所西の町屋の改修を通して」と題されたレクチャーで、森田一弥さんはお施主さんである文芸研究者の著作「近世考」を起点に、フレッチャーらの系統樹から発想された様式/技術の遺伝子の伝搬という考え方から、当該町屋の設計における思想的背景を解説されました。

それは単体でお話し頂いても十分面白いものなのですが、今回は当の町屋にフォーカスして話したかった所を、時間切れもあって話しきれなかったので、自分の見学した感想をまとめてみました。

**

森田さんは大学卒業後、左官職人→スペインへの二度の留学を経て帰国後一作目となる御所西の町屋の改修を設計されました。今回の改修が最もその経歴の軌跡がきれいに結実したメルクマークになっていると感じます。

最初の左官職人という立場では、普通にどんな設計事務所で修行するよりも、知識や技術の習得という点で日本建築をより深く学べます。それも寺社の保存補修という需要多き京都という場所は最適なはず。

また古い建物を改修し生かすヨーロッパの中のスペインという国で、バルセロナの市場や自邸を初めとした改修に独特の時間的感覚を設計に取り入れるEMBT事務所にて研修され、その現場を間近で見られた。

日本の現場で得た知見や技術、スペインで得た知見や技術、そのどちらが欠けても今回はなかったはずです。

その到達点とは一言で言えば、時間性の豊かさを表現している、ということです。
新築でなくリノベーションだからこそ獲得できる豊かさを、既存の「新しい/古い」「和/洋」などの対立軸の明確化でない形で作り出していること。

使われている素材で見れば、土や漆喰、杉皮や無垢の木、紙といった一見同じ自然材料で統一されています。けれど、古い物(元々そこにあったもの)を残し、持ってきた新しい物(そこになかったもの)を合わせる(=塗ったりして仕上げを合わす)でもなく、対比させる(=新旧を見切りなどの介在物を挟まず隣り合わせてコントラストを際立たせる)のでもない。新しい物を古い技術で施工したり(石灰などの繋ぎを入れない原始的な構法の土間)、根接ぎした柱をあえてそのままにしたり(弁柄などの塗料を塗らず既存に合わせない)している。剥がした土壁に、断熱材を施した後に剥がす前の土壁より古く見える荒壁塗り止めの仕上げとしたり、けれど反対側の壁は茶室の修繕のように古い壁をなるだけ残し端のめくれかかっている所だけ塗る、もしくは腰だけ新しく漆喰で塗るなどといった、場所によって現状を観察し改善する処方の中で、表現が時間的振幅がより大きい方向という判断基準で手の施し方が選ばれています。

その技術/構法を選択する上での効果を予見できる眼と経験、選択できる技術のグラデーションの細かさは、左官職人として現場を経験している森田さんだからこそのものでしょうし、リノベーションにおいて古い/新しいといったデジタルな対比でなく、その間に連綿と流れる時間を感じさせる表現のグラデーション、その豊かさは、スペイン研修時に見られた数々の建築から得られた知見でしょう。

築100年の町屋が、竣工した当時より古い構法をも使って改修された建築は、改修後の現代から見れば建立時以前の過去にも建っていたかのような時間的奥行きを見る者に与えます。

この続き、たとえばこれを新築でやるとするとどうなるのか?など先の展開も楽しみな所です。

**

当日、参考写真やダイアグラムを通じて伝えたかったのは上記のようなことでした。
そのような豊かさは自分も世界中を廻った旅行の中で感じた目指すものの一つであり、御所西の町屋を見てとても共感した所だったので、その良さが上の文章で少しでも伝わればと思います。

森田一弥さんのサイトはこちら
さっき覗いたらちょうどおそらく改装中。楽しそうなサイトになりそう。



No Responses to this post

This post has no comments yet.

Leave a Reply