140523 蟻鱒鳶ル


先日、京都のHAPSでレクチャーを伺った岡さんの蟻鱒鳶ルに行ってきました。

朝8時半くらいに現場に着いて、中を覗いても人気がない。外観を一通り見る。ビルやマンションが並ぶ風景の中に明らかにスケールとデザインの密度が違うものが、思っていたよりひっそりと建っている。通りは駅に向かうサラリーマンでまぁまぁの交通量だけど、ほとんど誰も気にせず日常化しているよう。


今日は休みかな?と思いながら通りの向こうを見ると、とても普通じゃない建物が建っている。クウェート大使館だった。構成とスケールのマッチングが素晴らしい。このスケールをこんなによくわかっている設計者って誰だろう、と思っていたら、後で丹下健三さんの設計と岡さんに聞く。恥ずかしながら知らなかった。代々木体育館、東京カテドラルに並ぶ東京の丹下さんの名作だと思う。


今日は休みかな、と思いつつせっかく来たので前で座って待っていると、岡さんが出勤されてきた。住宅地ということもあり9時定時とのこと。挨拶し、地下から一通り中を案内して下さる。

地下に鎮座しているミキサーと1回の打設にかかる人工と労力、時間を教えてもらう。ものすごい重さのコンクリートをポンプ車のない手運び手打ちでいかに大変か、どれだけ時間がかかるかよくわかった。学会図書館に通い、明治期のコン打ち文献にも目を通されたところ、彼らはミキサーもなしに人力でコンクリを捏ねて、橋などを建設していたらしい。もうそれだけでゴシック教会などの匹敵する途方もない労力だ。

手掘りで地下を延々掘ったと聞いていたので土圧で崩れたりしないのかな、と思って尋ねたら、掘ってすぐにモルタルを5cmほど塗りつける、ただそれだけで土留めになっているらしい。

普通なら杭を打ち鋼板矢板を入れるのだろうけれど、そうすると地下の面積が随分セットバックしてしまう。そこで、掘りながら土がどう崩れるか観察したらしい。掘った当初は長年踏み固められているので、掘削面は切り立っているが、太陽の光を浴びて乾き、そして雨が降り湿ると崩れる。その様子を見て、「日光に当たらず乾かなければいいのでは」と思い、試しに掘ってすぐにモルタル塗り、をしてみたら案の定崩壊しなかったとのこと。その上で掘り進め、今は壁が土留めとして立ち上がっているのでびくともしない。

かつ、普通に地下工事をすると地下壁や基礎打設後埋め戻しを行うが、埋め戻された土はいくら転圧をかけても既存の地面ほどの密度にはならない。雨水も浸透しやすい。それが掘削モルタル塗り方式だと埋め戻しが必要ないため、基礎/壁はモルタル面に密着し、強固になるそう。

木造だと、まだ日曜大工程度の木工をかじれば少しは材料の感覚をトライ&エラーでわかる気がするけれど、コンクリートでトライ&エラーで学ばれている所がすごい。


水セメント比は37%!という硬く打たれたコンクリートは、来訪された学者の方曰く、表面にガラス質が生成されるらしい。雨に打たれるとなくなってしまうそうで壁や床は消えているけれど、天井はほぼ残っていて最初何か剥離剤を塗った型枠で打っているのかと思った。(岡さんはそういうのは一切使わない。剥離剤が付いた手で鉄筋を触ったり、型枠から剥離剤が垂れて打継面に付いたり、そういうことが絶対に現場で起こるから)。気持ちよくて話ながら始終天井を撫でていた。


最上階に上がる。お風呂になる予定だった部屋のスラブに鉄筋が仕込まれている。せっかく作業着も持ってきたので、午前中だけ(といっても丁寧に案内頂いてしまってあまり時間も残ってない、恐縮)手伝わせてもらう。奥に見える型枠脱型のお手伝い。

昔勤めていた頃に、コン打ちを竹突きで補助したことはあったけれど、脱型は初めて。
セパはなく角材とチェーンで締め固められているパネルを外していく。岡さんは安全帯を付けて足場の上。すぐ下は道路。人がいないタイミングを見て、物が落ちないように外していく。下の型枠はイチイの木。

脱型が一番楽しい、と言われていたのがよくわかる。楽しい。1時間くらいしか働いてないけれど今日の成果。
下は既に脱型後のもの。

レクチャーでも少し話されていた、この敷地が再開発の対象になっている話を伺う。

弁護士さんから言われているのは、少しでもこの建築のことが世間に認知され、大勢を味方につけることが重要とのこと。
既にいくつかのメディアに取り上げられているし、このサイトの影響力などほぼ無いに等しいけれど、東京のどまん中で真面目にものを考えた末にこのような建築が作られていることを、知らない人が知る一助になればと思います。

岡さん、半日色々とお話し頂きありがとうございました。
前日に思い付かれた名案が実現した暁には必ず見に行かせてもらいます。

蟻鱒鳶ル保存会はこちら。
http://arimasutonbi.blogspot.jp/



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