162日目 100617 CHICAGO



7時過ぎ起床。朝食を食べて余った時間で少しログを書いてから、9時出発。今日はCAF主催のファンズワース邸プラスツアーに参加するため、歩いて数分のCAFショップまで向かう。

朝早くから大勢の人で店内はごった返している。同時刻にFLライトツアーもあるためのよう。胸につけるシールの色で区別している。時間になりバスに乗り込む。大きなバスなのに、ほぼ満員。運転手とは別にコンダクターが今日の概要を説明しながら一軒目のレクショアドライブアパートへ向かう。

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860-880Lakeshore drive apartment
Mies van der rohe
1951
N Lake Shore Drive 860-880,60611 Chicago,United States

900-910Lakeshore drive apartment
Mies van der rohe
1956

■入り口に警備員も居て、中に1階ロビーであれ中には入れなさそうです。ツアーでも道路(敷地内にさえ入れない)から見るだけでした。
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シカゴのダウンタウンから北、およそ15分ほどで到着。ミシガン湖際のすばらしいロケーション。敷地前の道路から眺めながら、解説を聞くがレイクショアドライブロードは国道のような道なので車がびゅんびゅん走り近くでもなかなか声が聞こえない。すぐ隣に二軒目を計画する際、全く同じとはせずに柱のスパンドレルや、サッシ面の納め方などに縦ラインをより強調する方向でミースはマイナーチェンジを加えている。が、二つ並べて見てみると、前者の方が良く見える。後者は線が多すぎる。前者の方がプレーンな柱や外壁面にI型鋼が映えている。バランスは難しい。フェデラルセンターの隣に同じようなプロポーションの、しかし外壁面がフラットな石貼りのビルが建っているのだが、外壁のI型鋼があることと、柱が外壁面からセットバックしていること、それだけでこんなにシックに印象が変わるのか、というのがよくわかる。ここのアパートの場合は、それに加えて芝生の中に基壇のようにトラバーチンの床が敷かれていることも、よりシックに貢献している。

滞在時間は短く、次にIITキャンパスへ向かう。
逆に南へ。キャンパス内でバスを降り、昨日もやってきたクラウンホールへ。
次に歩いてマコーミックセンターへ。10分、と時間を切られ、トイレ休憩を兼ねて内部を散策。急いで端から端まで見て廻る。外見以上にかなり複雑な空間。すぐに方向を見失う。上部を貫通しているLの高架が天井から覗かせられているのを目印に方角を確認。屋根スラブは折られ、ハイサイドライトが取られている。断面方向に様々な方向から貫入し、周辺部にある個室以外はほぼワンルームなのにとても多様な空間になっている。天井は写真で見たときにはプラスターボードに継ぎ目やビス穴をパテで埋めたまま、かと思ったが、触ってみるとそういう模様のペイントだった。ここまでフェイクとは。外壁の木目模様といい、手が込んでいる。塗装が最も安い仕上げの一つだが、その塗装でもできることがまだまだあると言っているよう。(写真がピンぼけばかりでろくな物がないのが残念。。)しかし、彼の建物はどれも天井や壁面内に照明を仕込んでいるのだが、交換はどうしているのだろう。毎回仕上げを外すのだろうか。もしくは、いくつか切れても気にせず、定期的に一斉交換のスケジュールを組んでいるのだろうか。

一行は外で集合し、隣のミースの教会へ。こちらも昨日は入らなかった。内部はとても簡素。天井は鉄骨むき出し。十字架がなかったら倉庫のよう。かなり予算が厳しかったそうだ。

バスに乗って最終目的地でメインのファンズワース邸へ。途中カフェに寄り、ビュッフェ形式の昼食をとる。チキンのサンドイッチと野菜や果物など。自分を含め二人しかいないアジア人であるもうひとりのコリアンのおばさんと一緒にテーブルに座る。韓国で建築を教える教授らしい。今はアメリカに一年間住んでいたそうで、ちょうど息子がDCに旅行に行ったため、束の間の自由な休みを楽しんでいるそうだ。今までのコリアンの女性の印象と違い、品がある。食事はとても美味しいのだけれど、話ながらもあって食べるのがとても遅く、まだ食べているのにもう出発時間となり急いでかきこむ。本当にこちらの人は食べるのが早い。

またバスに乗って数十分行く。周りはかなりのどかな草原と畑が広がる風景。その外れにヴィジターセンターはあった。センター内のショップを物色する間もなく、ツアーは歩いてファンズワース邸へ向かう。ここからはファンズワース邸のコンダクターがとって代わる。森の中の道を10分ほど歩くと木々の向こうに白い小さな神殿のような住宅が見えてくる。

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Farnsworth house
Mies van der rohe
1951
River Road 14520,60545 Plano,United States

■シカゴから一時間ほどの郊外にあります。
■下記ファンズワース邸のサイトでツアー予約できます。いくつか種類があります。その場合は出発点となるvisitorcenterまでバスなどで自力で行く必要があります。もしくは二週間に一度程度?のCAF主催のツアーに申し込めば、上記のようにIITやレイクショアドライブアパート経由でバスで連れて行ってもらえます。昼食込みで、税込みおよそ80ドル。内部撮影は不可でしたが、外から窓越しには撮れます。

http://www.farnsworthhouse.org
http://caf.architecture.org
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確か数年前に目の前の川が氾濫して建物丸ごと水に浸かったはずだが、きれいに修復されている。緑とのコントラストが実にきれい。グループは二つに分かれて、交代で内部を閲覧する。中は美術館と一緒ですべてのもの、壁でさえ触ってはいけない、と注意を受ける。靴も脱がなければならない。

後から観覧組に周り、外部を一周する。敷地の一番影となる側に大きな網戸が取られていた。解説では、夏でもこことエントランスドアを開けること、またカーテンを閉めることで日射を防ぎ、とても快適に過ごせるそうだ。

外部テラスのスラブの石の割り付けは、神経質なくらい、鉄骨のピッチに全て合わせられている。階段の段板のみそれに合わせられていないのは、端部に半端を持ってこないためだそうだ。どちらも奇数で中心ができるように割られている。鉄骨は溶接痕が全くわからないほどきれいに溶接、仕上げられている。床下に一つだけ見えるコンクリのパイプは排水をまとめて地中に送っているらしい。

順番になり中に入る。狭くもないが、広くもない。確かに単身の別荘ならありだが、複数人では狭いだろうという広さ。それでもバスルームは二つある。中央のコアとなる木家具造作の上部と、外周部の天井スリット(とても細い!)で換気をまかなって
いる。中から外を見ると、ミースのドローイングのように、天井と床、柱に縁取られ、外の緑がとても近くに見える。ジョンソンのグラスハウスより単純に中にいて心地がよい。

バスルームの内部も大きめの底目地により丁寧にグリッドが切られている。日本のような低い浴槽。コンパクトだが機能的。ジョンソンのバスルームより趣味がよい。

床にはとてもミニマルにコンセントが蓋付きで取り付けられている。最初何かわからなかった。写真によく載っているベッド脇の背丈以上のパーティションを兼ねたクローゼットは先の洪水でダメになって修復中だそうだ。

ファンズワース婦人は竣工後、こんなプライバシーのないガラスボックスを頼んだ覚えはない、とミースと係争に至ったらしい。それでも住み始めてからは、遠く離れた道路から、川をボートでなど、既に世界的に有名であった当住宅を見ようと、数多くの建築パパラッチが毎週末のように一目見ようと近づいてきたため、絶えずカーテンは閉められ、おちおちすばらしい眺めを満喫できなかったようだ。そのパパラッチの一人にはミースの孫も含まれていたそうで、彼が友人数人と見に行った時には、ファンズワース婦人は家の中からパパラッチは来ていないかと、双眼鏡で警備しているほどだったらしい。なんというか、とても奇妙な話だと思う。帰りのバスの中で、その経緯、また婦人が売りに出してから2代目イギリス人の弁護士の所有時、その後洪水にあい、サザビーズのオークションに掛けられ、辛くもナショナルトラストが競り落とすまでの経緯を語る地元TV番組が放映されていた。

時間になり、みな後ろ髪を引かれながら後にする。ショップで少し買い物をして帰りのバスへ。疲れてうとうとし、遠足の帰りのような感じでCAF前に戻ってくる。

バスを降りるとちょうど17時前。今日は17時から目の前のChicago Art Instituteが無料なので、少し待って入館。先ほどコリアンの教授があそこのピアノ設計の新館の橋がとてもきれいだったというので見ておかなくてはならない。

荷物を預けて館内マップを頼りに興味のある展示を見て回る。建築関係のコレクションも多数所持しており、アールヌーヴォ時代付近のヨーロッパの家具や什器、同時代のアメリカ、サリヴァンやシカゴ派のレリーフなど見応えがある。マッキントッシュやホフマンなどヨーロッパで見かけなかったものもあった。食器の展示がとてもいい。

建築のドローイングも保有しており、ミースやコルビュジェ、ライト、カーンなどのスケッチや図面が展示してあった。直筆(図面はスタッフのものだろうが)なのでまじまじと眺める。感慨深い。

絵画ではリヒターの作品が多数あり、ポートレイトや写真からぼかした一連の絵画が並び、最後に抽象的なぼかしのみの絵画が並ぶ。見応えがある。彼の作品は表現が多岐にわたり、正直よくわからないものもあるが、このシリーズは見ていて楽しい。焦点の合わなさ加減が奥行きを生じ、見ていて飽きない。

館内では毎週末やっているのか、今日も館内の至る所でダンスのスケジュールが組まれていた。面白いのは展示室や階段吹き抜けなど、ステージでなく、普通の場所でいきなり音楽が始まりダンスが始まること。これがとてもいい。普段は静的な展示室が一転、動きのある空間になる。またバレエに特に感心のない人にも、半ば事故的に目にする機会を与え、興味を持つきっかけになる。ダンサーは音楽が終わると、観覧者に混じって普通に歩いて次の演技場所へ向かっていく。

レンゾ・ピアノ設計の建物は、テンションを使い、ファサードや階段、各階廊下などをとても細い部材で支持している。ちゃんと端部までデザインされているのがピアノらしく、派手なスペクタクルはないが、予想外にとても良い空間になっている。

隣のミレニアムパークでは今日もワールドミュージックのコンサートが催されていた。ゲーリー設計の橋を近くで見てから、それを横目にお腹も空いたので宿へ歩いて戻る。

計算通り食材を使い切りパスタを作る。ちょうどキッチンに居た黒人と話す。シカゴ近くに住んでいて、仕事で泊まっているらしい。建築設備のプログラマーで、自分も建築をやっていると言うと、わざわざキッチンまでpcを持ってきて、彼が使っているソフトを見せてくれる。RevitというArchideskの3Dcadソフトで、一度3Dモデルを作ると、平面、断面、内観フレームパースからレンダリングパースまで、そのモデルを切るだけで図面が作成される。すばらしい。また、設備配管もすべて同じモデル状にインサートされており、レイヤーをon/offするだけで、特定の配管を表示できるようになっている。感動もの。この設備ソフトは最新で発売されたところらしい。これなら一つのデータを業種を超えて共有し、書き込んでいくことができる。(扱える人もまだ限られているだろうが)。

さすがに呼べるような大きな仕事はなさそうだけれど。食べながら話をして、日本に仕事があったら呼んでくれ、と名刺交換をし、別れる。作業をしてから明日の出発に備え0時頃就寝。



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